「会社の契約のせいで、来年まで辞められないんです……」
先日、台湾でこんな相談を受けた。
相談してきたAさんが勤めている台湾企業では、入社後3年以内に退職した場合、トレーニング費用として10万台湾ドルを全額負担する、という内容が契約書に書かれているらしい。
台湾で中小企業ながら一応会社を経営している僕がこの話を聞いて、まず思ったのは「いやいや、それはダメでしょ(笑)」ということだった。
ただ、調べてみると、実は業種によっては、契約段階でこのように労働者を半ば強制的に縛ることができてしまうケースがある、ということが分かってきた。
今日のこのブログでは、台湾における入社時のトレーニングと、契約書の有効性について書いてみたいと思う。
正直かなりニッチなテーマなので、台湾での就職を考えている人くらいにしかニーズはないと思う。ただ、知っておいて損はない内容だと思うので、共有しておきたい。
あ、ちなみに言っておくと、このブログを書くことで僕にメリットは一ミリもない。むしろデメリットのほうが大きい。その話はまた別の機会にしたい。
退社したらトレーニング費用請求はいいのか?

結論から言うと、台湾ではおそらく9割程度の業態において、一定期間内に退職した場合にトレーニング費用をそのまま請求したり、給与から差し引いたりすることは、基本的に認められていない。
興味深いのは、それにもかかわらず、多くの企業の雇用契約書には「〇〇期間内に辞めた場合、トレーニングにかかった費用は給与から差し引きます」といった文言が書かれているケースが非常に多いことだ。
では、これはどういうことなのか。
端的に言えば、台湾では契約書にこの種の内容を書くこと自体は問題ないが、実際にそれを実行することはできない、ということになる。
これを読んで、「えっ、それじゃ契約書の意味なくない?」と思った人も多いのではないだろうか。
確かに雇用契約書は契約書ではあるが、勞基法(労働基準法)に反する内容を含む雇用契約書は、結局のところ法的な効力を持たない。
例えば、雇用契約書に「本契約に同意することで、私はサービス残業30時間に同意します」と書かれていて、たとえ署名をしていたとしても、勞基法上それが違法と判断されれば、その条項は無効になる。
つまり、日系企業であれ台湾企業であれ、雇用契約書にさまざまな条件を書いてはいるものの、実際にそれを執行しなければ、特に意味を持たないケースが多いということだ。
台湾では、日本人が想像しているよりもはるかに高い頻度で退職が発生するため、抑止力としてあえて厳しい文言を明記しているだけで、実際には何もしない企業も少なくない。
もちろん、中には本当にそれを実行してしまう、いわゆるブラックな企業も存在するだろう。
経営者の立場から、この手の「ブラック」に見える契約内容について少し代弁すると、正直なところ、僕らも好きでこうした文言を書いているわけではない。
ただ、残念ながら例外的な人は一定数存在し、そうした人から会社を守るために、結果として不要に厳しい条件を契約書に盛り込まざるを得ない、という側面がある。
今後、雇用契約書にブラックに見える内容が書かれていたとしても、AIに契約書を見せて勞基法と照らし合わせてもらえばいい。
そう考えれば、そこまで心配する必要はないと思う。
本当に費用がかかった場合は支払い義務が発生するケースも

ただし、一部の業種や、特定の条件を満たす場合には、実際に支払い義務が発生するケースがあることも分かってきた。
例えば、航空業界だ。
前述した女性は実はキャビンアテンダントなのだが、キャビンアテンダントに関しては、本当に違約金が発生する可能性が高いようだ。
AIに聞いてみたところ、キャビンアテンダントのトレーニングで使用される施設や設備には相当なコストがかかるらしく、その分、違約金が認められる可能性も高くなるらしい。
また、航空業界は多くの場合が大企業であるため、仮に不服があって異議を唱えたとしても、相手側は優秀な弁護士を揃えてくるだろう。そう考えると、素直に従った方がタイムパフォーマンス的には良い、という判断になるケースもありそうだ。
ちなみに、僕の周りには彼女を含め、キャビンアテンダントの知り合いが数人いるが、国際線スタッフの待遇はかなり良いらしく、20代前半で月給60,000NTD前後の水準だという。
ただし、スケジュールは相当タイトで、時差があろうが、どんな環境であろうが眠れるタイプの人でないと、体力的にかなり厳しいらしい。
僕は枕の高さが少し変わるだけで途端に寝つきが悪くなるタイプなので、いくら給与が高くても、まず続かないだろう。
キャビンアテンダント以外の例として違約金が発生しうるケースは、会社の外でクラスを受講し、その費用を会社が負担した場合だ。
例えば、社外の語学学校や、特定のスキル習得を目的としたクラスなどがこれに該当する可能性が高い。
一方で、社内で実施された語学クラスやスキル習得トレーニングについては、繰り返しになるが、会社側が違約金を請求することは基本的にできないと考えてよい。
まとめ
台湾で就職する際、雇用契約書にトレーニングに関する違約金の記述があり、署名を求められたとしても、過度に気にする必要はない。
違約金が実際に発生するのは、ごく一部の業界や、限られた条件に該当する場合のみだ。
従業員が署名をしたからといって、企業がその署名を根拠に、無条件で違約金を請求できるわけではない。
万が一、実際に請求されて納得がいかない場合は、労働局に相談するのが良いだろう。
ちなみに、僕らの雇用契約書にも、トレーニングや違約金の条件に関する記述は入れている。こうして聞くとかなりブラックに感じるかもしれないが、台湾で8年間会社を経営してきた中で、「入れておいた方がいい」と学んだ上での措置だ。
ただし、実際に違約金を請求したことは一度もない。
以上、applemint代表・佐藤から、台湾就職におけるトレーニングと、その違約金についての話でした。
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