台湾上場企業の分析 『前編』:HTC の現状

台湾上場企業の分析 『前編』:HTC の現状

こんにちは、台湾でウェブマーケティングのサービスを提供する applemint 代表の佐藤 (@slamdunk772) です。

台湾に住んで6年が経ちました。そして今頃になってあることをしていないことに気づきました。

それは、

「台湾の会社をきちんと調べたことがない」ということです。今までアメリカの企業や、日本の企業は財務諸表やアニュアル・レポート等散々見てきたのに、台湾の会社は一社も見たことなかったのです。

台湾の方には失礼ですが、正直あまり台湾の会社の数字に興味を持てなかったからです….(苦笑)でも台湾に住んでいるのなら、やっぱり台湾の会社のことを少しぐらい理解しないといけないと思い、今回2つの台湾の会社をきちんと調べてみることにしました。

まず1社目は HTC で、もう一社は ASUS です!前編の今回は、まず HTC の分析をしたいと思います!ちなみに、以前以下のブログで、僕の財務諸表や会社分析のやり方を解説しましたが、今回も基本的には同じ手法で会社を調べたいと思います。

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まずは簡単に台湾の株式市場について

HTC を調べる前に、そもそも台湾の企業や市場はここ数年全体的に成長しているのか知りたいと思います。そこでまずは台湾の株式市場を見ることにしました。

台湾には、『TW50』 という台湾の代表的な会社 50 社の株価指数があります。
この TW50 を見れば、台湾の株式市場が過去数年でどのように推移したか大体わかります。(以下 Google のスクショ)

台湾TOP50

グラフを見ると、2006年時 5,044TWD だった株価はその後約 13年で 8,971TWD まで 77% 成長しました。つまり、台湾人の多くは景気が良くならないと言っているものの、台湾を代表する50社の株価指数は実は、大幅に上がっているということです。

これがどうすごいか説明するため、日系インデックス400 の株価指数を下に貼り付けます。日系インデックス400 とは、日本を代表する400 社の株価指数です。

日本株価指数

2006 年当時 13,833円だった株価は、2019年11月22日現在で 15,107円です。成長率は 8% ほどです。要するに、日本の株式市場は過去13年で低成長だったということです。

台湾の企業は今まで全く注目してきませんでしたが、株式市場の観点から見ると、どうやらかなり成長しているようです。では早速、僕が今回ケーススタディに選んだ HTC と ASUS の内、HTC から見ていきましょう!

HTC の現状:今何やってるの?

台湾 HTC の現状

企業を分析する時、まず調べないといけないのはその会社がどうやって儲けているかです。具体的には、どんなビジネスをしているか確認し、次にそのビジネスがどうやって儲けを出しているか因数分解をします。

今回まずは HTC のアニュアルレポートを見て、HTC がどんなビジネスをしているか見ました。ちなみに HTC のアニュアルレポートを見た感想ですが、超読みにくいです….

「AI」、「big data」、「Block chain」とか、今時の人が好きそうな単語を連発してますが、内容は全く頭に入ってきませんでした。正直読み手からすると非常にわかりにくい内容でした。

とりあえずまず分かったことは HTC はメーカーであり、現在は以下のビジネスを展開しているということです:

・『VIVE』という VR デバイスビジネス
・スマートフォンビジネス
・DeepQ というヘルスケアのビジネス(内容はよく分かりません)
・5G Hub (ネット速度が早くなる WIFI ルーターみたいなもの)

次に、これらのビジネスの儲けを最大化することになった場合、何をしないと行けないか書きたいと思います。

HTC の儲けを最大化する方法

工場の写真

HTC はメーカーです。 Deep Q というよくわからない医療サービスを始めているものの基本的にはモノを売る会社です。 メーカーの儲けを簡単に因数分解すると以下のようになります:

メーカーのビジネスを因数分解

– (研究・開発コスト) – (仕入れ) – (製造費用) + 売値 = 儲け

この因数分解が正しければ、売上を最大化する方法は以下になります。

HTC が儲けを最大化する方法

1. 研究・開発コストを絞る (R&D コスト削減)
2. 仕入れコストを下げる
3. 人件費・製造費用を下げる (歩留まり UP、製造の効率化)
4. 売値を上げる

会社は基本的に #1 – #4 全てをしますが、資源を集中する項目はその時々で違います。そこで、HTC は具体的に何を改善しても儲けを最大化しようとしているか、 一つ一つ見てみたいと思います。まずは R&D コストの推移を見ます。

R&D のコスト

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参考: HTC 2018 Annual report

文字が小さすぎて読みづらいのですが、2019年のR&D のコストは前年比で32%減っています。一部の研究費用を減らして、利益率を上げようとしている姿が垣間見えます。

次に、仕入れコストが下がっているか見ます。メーカーの仕入れコストは通常、売上が増加すればそれに合わせて上がるので、金額を見るのではなく、粗利の比率を見ます。

2018年の粗利率は 2.16%で、2017年は 2.15% なので、特に仕入れコストが下がっている印象はありません。というか、粗利率 2% という異常な低さの粗利率にびっくりしました….

続いて、人件費やマーケティングの費用が下がっているか、営業利益率を比較して見てみました。営業利益率は 2018年:-58.8%、2017年は -28% です。2018年のマーケティング費用は2017年に比べて下がっていましたが、売上に対するオペレーション費用は下がっていないため、営業利益率は大幅に悪化していました。

せめて売上が上がっている中での営業利益マイナスは人員増加の可能性もあって期待が持てますが、2018年の売上は前年比38% ダウンです….

HTC の結論

HTC の過去2年の数字を見ると、考えていることは以下かと思います:

HTC の将来的な方向性

1. プレミアム価格な製品を出そうとしているわけではない:粗利が上がっていないところを見ると、売値を上げて利益率をあげようという考えではなさそうです。
2. 原価を下げることも特に考えてはいない:サプライヤーは超大手企業が目立ちました。
3. R&D コストやマーケティング費用を下げて利益率を改善しようとしている。

R&D の費用は減少したのに、営業利益率が下がったところを見ると、人員をキープしつつ、新しい製品を開発しようとしているように見えます。アニュアル・レポートでは、2019年から2020年にかけては 5G 関連の製品開発を目指す旨が明記されていました。

以上、ひとまず HTC の分析は終わりです。えっ、見るのはたったこれだけいいの?と思った方!そうなんです!(笑)

別に僕は HTC の財務状況やデューデリジェンスをしたくてアニュアルレポートの数字を見ているわけではありません。

まず簡単に企業を分析したい場合僕は、現金保有がいくらで、棚卸資産がどれくらいで、商品の現金化回転率はどれくらいで、運転資金はいくらでとか別に調べません。株を購入するとかってなったらもっと深く調べます。

僕の企業分析の出発点は、企業がどんなビジネスをしていて、そのビジネスはどうやって儲けているか因数分解をして、その儲けをどうやって最大化しようとしているか調べるだけです。

HTC の未来は?どうすればいいの?

mobile in 台湾上場企業の分析 『前編』:HTC の現状

最後に、HTC の数字をいくつか見た上で、HTC の未来について僕なりの意見を述べたいと思います。メーカーが売上を最大化する場合、本質的に何をすればいいでしょうか?

それはモノを売ることではないでしょうか?

Facebook は広告費で儲けているため、会員数を維持する、或いは増やすことが本質的にしないといけないことです。広告主は人が集まるところにしか、広告を出しません。いくら広告の商品を魅力的にしても、ユーザーがいなければ無意味です。

会員数を増やして広告費で稼ぐビジネスは利益率が高くて、一見楽に見えるかもしれませんが、参入障壁が低く、常に新しいライバルが出てきます。モノを売る事業は参入障壁が高いですが、原価が問題となります。また、高い参入障壁を乗り越えたあとは、差別化が課題になります。

したがって、こんな偉そうなことを言うのもあれですが、メーカーは如何に自分達の商品に付加価値をつけて、プレミアムプライスをつけて売れるかが収益を最大化する鍵になる気がしています。ではどうすればプレミアムなプライスをつけられるのか?

それは商品にどれだけストーリーをのせられるかではないでしょうか?なぜ apple の製品はプレミアムなプライスでも人は買うのでしょうか?それはデザインや機能だけではなく、そこにはストーリーがあるからと思っています。

ちょっと話は逸れますが、多くの人は、 apple は自社製品にものすごいマージンを乗せていると思いがちですが、実は思ったよりも乗せていません。アニュアルレポートを確認したところ、商品の粗利率は 32% で商品及びサービスを含んだ営業利益率は 13% ほどです。

メーカの人から見ると粗利率 32% は驚異なのでしょうが、一般消費者から見ればそうでもない気がします。この話をまとめると、本来メーカーは apple のような価格が適切に儲けられる価格ということになります。

話を HTC に戻します。HTC も apple 同様、商品にストーリーをつけて、売ることがネクストアクションと思っています。多少失敗をしてもいいと思っています。(株主は許さないのが机上の空論と現実の違いですが….)とにかく失敗をネタにして、ファンを集めればいいのかなと思います。

西野亮廣氏がこれからの時代は、ファンを作ることが大事で、ファンを作るためにはある程度失敗が必要だと語っています。人々は、失敗してでもチャレンジをする人や会社を応援すると語っていました。

確かに完璧すぎる人や、完璧すぎる会社って応援しなくてもいいって思っちゃいますよね。SHOWROOM の前田裕司氏も同じようなことを言っていて、少しぐらい欠点がある人の方が、ファンは集まると話してました。

参考:西野亮廣「PDCAを回している会社はヤバイ!

しかし、残念ながら HTC はチャレンジしている感じはありません。HTC は DeepQ という明らかに高利益狙いのヘルスケアのサービスを始めました。僕はこのサービスの裏に HTC がものすごく強い使命感とストーリーを持って取り組んでいるようには見えません。

なので、HTC の未来に関しては、個人的には少し不安です。株価も2006年から 89%ダウンしました。

htc stock656 in 台湾上場企業の分析 『前編』:HTC の現状

以上、僕の個人的な HTC に関する分析と見解でした。次回は ASUS について書いています!

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